「駄目な宿の駄目なところは1回行けばあらかたわかるけど、
いい宿はリピートすると、そのよさがますます深く理解できる」
ということをしみじみと実感したのが「だいこんの花」2回目の宿泊でした。
そもそも二度目の宿泊を決めたのは、2004年の2月に初めて泊まった時、そのサービスの細やかさに感銘を受けたからでした。
2日目のランチを館内でいただけないかと支配人さんに相談したところ、用意できないことに恐縮し、近くのレストランまで車で連れて行ってくれたのです(普通は近くの店を紹介するだけでおしまいだと思う)。
しかも、徒歩5分くらいの距離なのに、帰りも迎えに来てくださるとのこと。申し訳なく思い歩いて帰ると、ロビーにいた数人のスタッフの方たちが、「歩かれたのですか!?」と驚いた表情で迎えてくれたのです。つまり私たちの情報が、すべてのスタッフに伝えられていたというわけです。18室もあるというのに。
この時、「だいこんの花・愛」が宿ったのだと思います
2回目に訪れたのは、その半年後のこと。新たなサービスがさらに 加わっていました。
*白石の駅に待機していた送迎バスに乗り込むとすぐに、冷たいお絞りのサービス。
*朝のおめざ用の缶ジュースのサービス(トマトとリンゴ)。
*夕食が始まると私の席には食前酒が、ダンナの席には同じグラスに絞りたてのジュースが黙って置かれた
→前回の宿泊の時、夫がお酒を飲まなかったことが記録されていた模様。こんな心配りは初めて。もちろん苦手な食材が取り除かれていたのは言うまでもありません。
サービスといえばこの宿で初めて出会ったのが、
*食後にロビーでデザートワイン
*深夜に「ことりサロン」で夜食
*朝は野菜畑でハーブティーがいただける
サービス。夜食はおなかいっぱいでパスしたのでわかりませんでしたが、ワインとハーブティーはおいしくいただきました。
無人の畑の中に無防備に置かれたハーブティーセットに、神経質な夫は抵抗を感じたようで、飲まずに部屋に帰ってしまいました。でも地面に埋められた釜から熱いお湯を汲み、誰もいない広々とした野菜畑を眺めながら、摘みたてのミントの香りを楽しむのはワイルドでおもしろい体験でした。
ワインサービスも、ロビーのカウンターにグラスと氷入りのバケツ入りワインが用意されているだけ。気がねがいらず、私のような飲んべえにはむしろありがたかったです。
遅い時間に通りかかったら、照明を落としたロビーのソファに老夫婦が座り、静かにワインを楽しんでいる姿が見られました。
「もてなされたい派」には不満でしょうが、私はこの気楽なシステムは悪くないと思いました。
システムそのものは合理的でさっぱりしているのですが、一方スタッフの気配りのきめ細やかさはただごとではありません。スタッフひとりひとりに、『喜んでもらいたい」「快適に過ごしてもらいたい」というオーラを感じ、いろんな感動や発見をもらえる、理想の宿についに出会えたと思ったのでした。
3回目の宿泊は、その翌年の6月。研修中の札をつけたスタッフが多く、あの素晴らしかった心配りは見られず、サービスがはっきりとレベルダウンしていること愕然としました。
私たちの一日目の夕食担当の若い男性スタッフも、明るくて愛嬌はあったものの、何から何まで頼りなくて驚きの連続。
例えばダイニングルームの照明がかなり暗めだったので「ずいぶん大人な雰囲気に変わったんだね」とダンナと話しあっていたら、
「すみません、電気つけるの忘れてました」。
ドリフのコントかい!(「もしもこんな旅館があったなら」シリーズ)
いろんなところに泊まりましたが、電気をつけ忘れられたのは初めてでした…。
その後も、食事を運んでくるたびになにかを忘れて「失礼しました」と取りに戻るの繰り返し。深刻なミスではないものの、度重なると笑いもひきつるというもの。
この宿から送られるニュースレターを熟読しているダンナはは、「経営している会社が、グループ旅館の数を増やしているみたい。だから新入社員が増えて、トレーニングが追いついてないんだろうね…」と寂しげに分析していました。
さらに、食事の内容も微妙に変わったような気がしました。過去2回は、前菜として新鮮な大根や白菜が、半割りのままダイナミックに出てきて、今回もそれを楽しみにしていたのに出なかったのでがっかり。そして、デザートの大根アイスは、はっきりと大根の苦味が際立つ失敗作だと思いました…。試食の段階で反対者は出なかったのだろうかと、大きな疑問がわく味とでも申しましょうか…。
またチェックアウト時に本を自宅に送るため、ガムテープを借りにフロントに行くと「ひとつしかないので、すぐに返してください」と釘をさされるしまつ(しかもこっちを見もしないで)。
1.チェックアウト直前なんだからすぐに返すに決まっているじゃん!わざわざ言わなくてもいいじゃん!
2.複数のお客様が要求した時に備えて、予備ぐらい用意しておくべきでは?
3.この前の宿泊の時のスタッフは、同じことを頼んだらにっこり微笑んで『お部屋までお持ちします』って言ってくれたのに。
一時が万事、「すごく失礼」と腹を立てるレベルじゃなく、こうして書くのも大人げないと思うことなのですが…。
ちなみに上記のふたりは奇しくも男性スタッフでしたが、あいかわらず一生懸命なスタッフもちゃんといました(女性)。
特にことりサロンのおやつタイムに準備をしていた女性スタッフは、私が素通りしたらすごく寂しそうな表情になりました。彼女からは、「おもてなししたい」「喜んで欲しい」オーラが感じられました。前回・前々回の宿泊の時は、すれ違うどのスタッフからも感じられたあのオーラが。
いいところもたくさんあり、嫌いになるには惜しい宿。でも次の時、もっとスタッフの質が低下していたら。4回目の予約をとるべきかどうか、私たち夫婦の心は揺れました。
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たぶん、そのままだったら私たちは、もう次の予約をとらずにフェイドアウトしていたと思います。新しい宿は次々にできるし、行きたいところは山ほどあるのですから…。
でもある時、宿からのニュースレターに書かれていた社長さんのコラムに、ものすごく心が揺れてしまったのです。
たぶんすごくお人柄のいい社長さんで、宿もスタッフのことも大事に思っているのでしょう。スタッフのサービスがどんどん向上していることを、無邪気に喜んでおられる内容でした。
私はこんな勝手なことを書いてはいるけれど、じつはクレームもよう言えないへたれなタイプ。
でもその社長さんのコラムににじみ出ている親しみやすさと温かさのせいか、それとも1,2回目に感じた「愛」がそうさせたのか、「自分たちが感じたことをこの人に伝えなければ」と思って、手紙を書いたのです。
投函した後で、小心な私はうじうじ後悔し、「ますます二度と行けないな」と思いました。
すると数日後に、支配人の方から丁寧なお手紙が届きました。従業員全員で手紙を読み、大変ショックを受けたこと。みんなで原因を考え、話し合ったこと。ぜひもう一度、チャンスをいただきたいこと…
心を打たれる誠実なお手紙でした。で、いろいろ逡巡はしたものの、思い切って予約を入れました。
結果は、行ってよかったと心から思っています。
チェックイン時に、手紙をくださった支配人の方が「前回は申し訳ありませんでした」という言葉とともに出迎えてくださいました。私は動揺してしまい(どこまでも小心者)うまくご挨拶がかえせなかったのですが、部屋に入るとダンナが「先方があれだけ真摯な態度で迎えてくださっているのに、さっきの君の態度は失礼だ」とひとこと。はい、自分でもそう思いました…。
滞在中、研修中のスタッフの姿はなく、サービスも以前と同じように、いいえそれ以上に復活していました。クレームをつけたから特別扱い、というわけでないことは、食事どころのほかの部屋から聞こえる楽しそうな会話からもうかがえました。
チェックアウト時も支配人の方がご挨拶に見え、私が「お陰さまで以前と同じように楽しく過ごせました」「手紙では失礼なことを書いてしまって」とお詫びをすると「駄目なところを指摘してくださるお客さまは少ない。本当に感謝しています」と、私の気づまりさをときほぐすような温かい言葉をかけていただき、また感動。
またこの宿が、さらに好きになりました。
黙ってフェイドアウトしなくてよかった…♪
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